2009年8月20日 毎日新聞 掲載

“わが家のミカタ”
〜「底打ち」の実相2 急増「マイホーム難民」〜


 大手電機メーカーの下請け工場で働く島田耕治さん(42)=仮名=には夏のボーナスが出なかった。東京都足立区の一戸建ての住宅ローン返済が重くのしかかる。「冬のボーナスも厳しいと、家を手放すしかない」。直前の6月に政府が「景気底打ち」を宣言したが、遠い世界の出来事に聞こえた。
島田さんは、長男が生まれた16年前に4800万円で一戸建てを購入した。ローン返済は月16万円と夏冬のボーナス払いが計45万円。楽ではなかったが、懸命に返してきた。だが、昨秋以降の金融危機で大手電機メーカーが大幅減産に踏み切り、勤務先の業績も急速に悪化した。
島田さんは金融機関に駆け込み、ボーナス払いを免除してもらった。だが、月々の支払いを20万近くに増やされた。年明けから給料は手取りで月32万円と約3割カットされ、ローン返済で大半が消える。高校受験を控えた長女の教育費などで消費者金融からの借金は300万円に膨らんだ。 省エネ家電への買い替えを支援するエコポイント制度が導入され、電機業界も生産が持ち直し始めている。島田さんが働く工場も一時は生産ラインがほとんど働いていなかったが、稼働率が7〜8割まで戻った。しかし、島田さんは「エコポイントの効果は一時的。冬のボーナスもどこまで出るか」とおびえる。

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 不動産業者などで構成する不動産競売流通協会(東京都中央区)によると、今年7月の全国の不動産競売件数は7229件と前年同月の1・7倍に急増。住宅(戸建て・マンション)は約7割を占め、「マイホーム難民」が急増している。しかも、島田さんのような「難民予備軍」が控え、競売はさらに増える可能性が高い。
「環境が悪くなっても、もっと安い家に住み替えたいのだが」。収入減で住宅ローン返済に耐えかねた人からの相談が不動産業者に相次いでいる。首都圏や関西圏で営業するF・P管財(本社・大阪市北区)は「こうした相談は去年はほとんどなかったが、今春以降は相談全体の4分の1を占める」と話す。ただ、金融機関が返済能力を厳しく審査するため、住み替えがうまくいったケースはまれという。
東京都練馬区の木築徹さん(50)=同=は今年2月、18年間住んだマンションを競売にかけた。
小さな設計事務所と旅行代理店を営んでいたが、昨秋の金融危機以降は仕事がほとんど入らず、行き詰った。競売後も手元には1億円近い借金が残り、春に自己破産を申請した。
「景気底打ち?冗談じゃない。中小企業はまだ悪くなる」と木築さんは吐き捨てるように言った。家族とは気まずくなって、別居に追い込まれ、今は狭いアパートで1人暮らしだ。連日、ハローワークに足を運ぶが、職は見つからず、警備員をしながら糊口をしのいでいる。
自己破産しても公民権はなくならず、衆院選には投票できる。だが、「家も会社も失い、自分の身一つで生きていかないといけない。政治には期待しない」とあきらめたようにつぶやいた。
【永井大介、宇都宮裕一】 

 

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