競売物件や破産管財物件、任意売却物件といった”わけあり物件”を主に、売買仲介や投資コンサルティングを行う不動産総合事務所が取り組むのは、借金苦や破産の瀬戸際で悩む人たちの「こころ」の”再生”
北端社長は実質2年で年商3億円の会社に育てた。
2006年、個人が申し立てた自己破産件数は、1年間で約16万6000件に達した。2003年の約24万件をピークに、ここ数年は減少傾向にあるものの、水準は決して低いとはいえない。
「半年ほど前、大阪市内のマンションで、30代の男性が飛び降り自殺をしました。同じマンションにある自宅では、奥さんと子供が亡くなっていた。自殺した男性の携帯電話の未送信メールには、『仕事がなく食べていけない』という内容の”遺書”が残されていたそうです。よくある話ですが、お金で死ぬほどバカらしいことはありません。もし、その男性が何らかの方法で当社のことを知っていたら、絶対一家心中するようなことにはならなかったはずです」
F・P管財の北端秀行社長(31)は、こういって眉を曇らせた。
不動産総合事務所の看板を掲げる同社が主に扱うのは、競売物件、破産管財物件、任意売却物件、相続物件、事故案件など、一般の流通網に乗らない不動産物件。大阪地方裁判所の正面のビルに本社を構えていることもあり、破産管財人、弁護士、金融機関からはむろん、ときには債務者自身やその家族、親戚、友人などを通して、さまざまな情報が集まる。それらをもとに、売り主、買い主、さらには債務者、債権者など関係者の間に立って、交渉、仲介するほか、直接物件を買い取って転売したり、一般の賃貸物件として貸し出す。
だが、同社を特徴付けているのは、そうした本来の不動産業務ではない。「当社の仕事では、多くの場合、話をする相手が多額の借金を抱えた債務者や破産者、あるいはその親族だったりします。そういう人たちは、とにかく切羽詰った状況にある。なのに、誰にも相談することが出来ず、ひとりで悩んでいる。それこそ自殺の一歩手前にいる人たちを、所有する不動産を手がかりに、何とか生活を維持し、もう一度立ち直れるようにカウンセリングする。それが私たちのもう1つの”仕事”なのです」
奥さんの実家が保証人になっていれば、出かけて「ご協力を」と頼み込む。離婚を思いとどまるよう、説得したりもする。膝を付き合わせての話し合いが、数時間に及ぶことも少なくない。
相談の結果、住んでいる家を売り払っても債務が解消できない場合など、同社がリスクを被って買い取り、そのまま債務者が家賃を払って住み続けられるようにすることもある。
最初は「自分で何とかする」「放っといてくれ」と、頑なに話し合いを拒む債務者も、最後には手を取って「あなたのおかげだ、あ り が と う」と頭を下げるという。
カウンセリングそのものは無償。不動産の売買にならない限り、同社自身に儲けはない。
「当社はあくまで不動産屋ですから」
北端社長は、以前に勤めていた会社が倒産。自身が債務者ではなかったが、立場上、道義的責任を負うことになり、負債を抱える苦労が身にしみている。債務者や破産者が「どうしようもなくなったときの相談窓口」として頼るのは、そんな体験が根底にあるからかもしれない。 |